長島フクからの年賀状 (4)

A説が無理とわかったので、残っているB,C説について考えていきます。


最初にB説
長島フクは事件前は何も知らず、事件後になってから証言の協力をさせられた
について。


この場合、証言の協力を要請したのは犯人側だけとは限らず、警察である可能性があります。

B1. 警察が証言の協力を要請
B2. 犯人側が証言の協力を要請


B1の場合
警察が協力を要請した理由は何かについて、ここでは考えません。可能性についてだけ考えます。
警察は犯人ではないので、捜査途中では替え玉の行動全体を把握できていません。証言をする対象の時間帯(午後二時から五時半まで)に末広旅館がどのような状況だったかについても、すぐには把握できないと思います。死体発見は七月六日で、平正一「生体れき断」によると、七日の午後四時の段階で毎日新聞の記者が本社に電話して、末広旅館で総裁らしき人が休息したことを報告しています。警察が工作するとすれば、それよりもかなり前の時間でなければなりません。
これだけの短時間の判断で、他の証言や証拠に対して致命的な矛盾を発生させずに末広旅館に偽証を要請することは無理だと考えます。(結果的には可能だったかもしれませんが、警察自身がその時点で可能だとは思わないでしょう。)


B2の場合
犯人側は多くの人間が関わっている計画を実行しておきながら、事件後になってから旅館の証言を工作をしようとするか、という点で疑問です。既に警察が大規模な捜査している最中に旅館にアプローチして、上手くいくとは思えません。それなら計画時点で組み込むでしょう。
一つ前のエントリで説明した様に、どの旅館に行くか事前に決められないのですから、女中を置いていないと思われる末広旅館ではなく、もっと大きな旅館に行くことになる可能性もあります。その場合、複数の人に替え玉が目撃される可能性が高いので、その全員に協力させるのは困難としか言いようがありません。


最後にC説
長島フクは犯人側とは何の関係もなく、見たことをそのまま証言した
についてですが、これについては「下山事件全研究」に書かれていることを利用します。


長島フクは下山総裁のクセについて、いくつか証言しています。これらは家族か側近の人しか知りません。
警察は替え玉説の可能性についてもきちんと捜査しています。家族と側近の交友関係を調査し、聞き取り調査もして、疑いのある人は全くなかったことが明らかになっています。(クセ情報の流出なし)
このように総裁のクセの情報を入手すること自体が困難ですが、その情報を入手できて替え玉が実行したとしても、旅館の人が見逃さずに覚えておいてくれるかどうか当てになりません。


事前に旅館に対して工作をしていなかった場合、さらに次のような問題があります。
下山総裁の行方がわからなくなってからある程度の時間が経過すると、それがニュースになってラジオで放送されてしまいます。実際に午後三時半の臨時ニュースと午後五時の定時ニュースで流れています。これを事前に予想していないとすれば、ずいぶん楽観的な犯人ということです。(実際の末広旅館では、このニュースを聞いていなかったようです。供述調書によると「家のラジオは野球放送がかかっていました。」となっています。)
もしその時点で警察に連絡されると、計画は完全に失敗します。


もう一つ付け加えると、長島フクは事件後、下山総裁をもう一度見て確認しているのです。実物ではなく映像ですが。
(ニュース映画と末広旅館の女将 http://shimoyamacase.com/etc/etc9.html)


B,Cの場合についても、実現性は殆どないことが示されました。
以上で、替え玉説は成立しないことが、はっきりしたと思います。
他殺説の主張は下山総裁本人であると認めると自殺という結論になるので替え玉だと言っているだけで、替え玉説は元々無理な話なのです。


最後に、年賀状について検討したいと思います。