長島フクからの年賀状 (3)

長島フクの立場について、A説の
事件前から犯人側に証言で協力することになっていた
が成立しない理由を説明します。


事件前から協力することになっていたということは、予め末広旅館に決めていたということです。しかし五反野駅員に旅館を聞いているので、どの旅館になるのか予測不可能です。駅員の言った旅館を無視して末広旅館に行くことは可能ではありますが、そんなことをするくらいなら、旅館を聞かずに他のことを質問すれば済みます。


駅員が多分、末広旅館と答えるだろうと期待するのも無理です。
柴田哲孝下山事件 最後の証言」の中で、末広旅館があった場所の隣に住んでいる老人の話がでてきます。

「末広旅館ていうのは汚い連れ込み宿でね。そんなところに下山さんみたいな偉い人が来るもんかってさ。みんなでそう噂してたんだよ。」

駅員が末広旅館を選んだ理由も、駅員自身の証言によれば

「以前から知って居る末広旅館を教えてやりました。」

というように、個人的に知っていたからという理由で、誰でも末広旅館と答えるだろうと期待するのは無理のようです。


最後に残る可能性として、駅員も予め犯人側に協力することになっていたということが考えられますが、常識的に考えてそこまで手間をかける意味があるとは思えませんし、佐藤一「下山事件全研究」の68ページに駅員の話が載っています。

「五日は日勤で、清算係をしていた。午後一時四十三分着の下り電車がきたとき、改札係が昼食をとっていたので、かわりに改札口で集札をしていた。」

このように、その駅員が改札係をしていたのは、別の改札係がその時間に昼食をとっていたからに過ぎないのです。


以上でA説が成り立たないことが示されました。
これで「下山事件 最後の証言」に述べられたような、長島フクと亜細亜産業の柴田宏との間に事件に関係する繋がりがあったという可能性は消滅です。
第59回 日本推理作家協会賞受賞作品は、ブログの二個のエントリで論破される程度の内容だったということです。

これにて終了でも良いのですが、折角なので他の場合(B,C)についても考えていきます。