日本海海戦勝利の真実 (続き)

軍事研究2005/11号に多田智彦氏の「日本海海戦勝利の真実」という記事があって、その中に別宮暖朗氏の「「坂の上の雲」では分からない日本海海戦」に対する間違い指摘が出ているということを、以前に書いた

「坂の上の雲」では分からない 日本海海戦

「坂の上の雲」では分からない 日本海海戦

その後で「「坂の上の雲」では分からない日本海海戦」を再読してみた。この著作は兵器技術的な部分が内容の中心ではなく、それ以外(戦史、戦術の分析など)のほうが中心であり、多田氏の指摘は兵器と訓練方法に関するものだけであるので、全体としては致命的な問題とはならないと思った。しかし、今後別宮氏の著作を読むときには、少し割り引いて受け止めたほうがよいかもしれない。
前回書いておいた間違い指摘の中で、最初の項目は間違いとは言えないと思うので、以下に再掲しておく。(赤色が多田氏、緑色が私のコメント)

  1. 「中口径砲では...(略)...ホースで水をかけるような射撃が可能」
    • 発射速度数発/分程度の中口径砲にはあてはまらない。
    • 中口径砲の発射速度に関しては、別宮氏の著作の中に数値例が書かれているところもあるので、これは間違いではなく、単に「文学的な表現」だろう。
  2. 「艦砲の狙いとは機械の目盛りで決定される。艦砲の命中率とは、砲手が訓練をたくさんして、目を澄まし、心を沈着にし、狙いをつけても向上するものではない。」
    • 艦砲というものを全く理解していない記述。
  3. 「砲手の訓練によって発射速度があがるものではない」
    • 当時の手動装填による艦載砲を現代の自動砲のように勘違いしている、程度の低い間違い。
  4. 「変距率を求めるのに距離時計という装置、および暫定苗頭や暫定距離を算出するのにダマレスクという機械が導入された」
    • ヴィッカーズ・レンジ・クロック(距離時計)やドゥマリック計算尺などが日本海軍に導入されたのは日露戦争後の明治時代末期以降。導入もされていない距離時計という装置などの作動原理を理解していないためか、使用目的の説明は全く間違っている。
  5. 内筒砲射撃についての記述 「小口径砲に小銃をくくりつけ」「気休めに近いものだったろう」
    • 内筒砲射撃というものを全く理解していないとしか言いようがない。
  6. 「艦砲の命中率とは、このようにハードやそれの訓練だけでは簡単に得られない。つまり砲術計算というソフトが死命を制する。日露戦争全期間を通じて、日本の命中率がロシアを常に上回っていたのは、砲手の訓練だったり、大和民族が優秀であったりしたわけではない。日本の砲術というソフト技術がすぐれていたのだ。」
    • 当時の日本海軍における射撃指揮法、砲の操作法、射撃訓練状況などに関する無理解につきる。別宮の言うソフト技術とは何を指しているのか理解に苦しむが、世界的に見ても砲術というソフト技術が確立して命中率が向上し、...(略)...目標照準可能な方位盤がイギリス海軍で実用化される1910年頃以降の話なのである。