第八回 武家用心集

武家用心集 (集英社文庫)

武家用心集 (集英社文庫)

乙川優三郎の小説で最初に読んだのは「霧の橋」である。六年ぐらい前だろうか。読み終わって、完成度の高さに驚愕した。この作品だけで藤沢周平を超えたのではないかと本気で考えたことを思い出す。しかし、その後に発表された作品は、どれも悪い出来ではないが、「霧の橋」の印象があまりも強いために不満の残るものだった。それに比べて、今回の短編集は、ほぼ期待したレベルの内容と言えるだろう。ただ、これまでも藤沢周平の作品に雰囲気が似ていると言われていたが、最早似ているというよりそっくりとしか思えないようになっている。それだけに、藤沢周平と比較して、文章の一部に微かに緩みがあることが気になる。